法華宗仏檀のお洗濯(完全修復)その1
(完成・納入)
法華宗のお仏檀のお洗濯のご依頼をいただきました。
長年のお参りで汚れたり傷みが出てきたお仏檀も手を入れることで見違えるように甦ります。
さいきんでは短時間で済む訪問のお仏壇洗浄業者もあるようです。 「汚れ落とし」と簡単な「繕い」、一日二日の作業で数十万円の料金を請求することに正直疑問を感じます。実際に見たわけではないので完全否定はできませんがあくまで商売だけのような気がしてなりません。 本来のお洗濯(分解・塗りなおし)で頂く代金が、その泡洗浄の料金の仮に5倍だとしても、仕上がり具合の差は決して5倍どころではないと確信しています。 またおおよそ二ヶ月を必要とし、かける手間にいたっては単純に日数換算だけでも数十倍です。
当店では、商売人である前に「職人」として「塗師」としてお代金以上のご満足を感じていただけるように、近道をしない真摯な姿勢で日々仕事に取り組んでおります。
さらに当店では「天然の漆」を、彩色は除く、下地から上塗りまで全ての塗り工程で使用しております。現在この体制をとっている仏壇店はほとんどないとおもわれます。すくなくともわたし自身は聞いたことがありません。
世間で一般的になっている、手軽な化学材料(サーフェーサー・パテ)や合成塗料(ウレタン等)、カシュー塗料は一切使用しておりません。ご注意いただきたいのは「本漆」という表記です。これは漆ではない場合が少なくありません。
このページでは本来のお洗濯、そして漆を使った塗り仏檀の修復作業、を知っていただければ、と、少し細かいところまで写真をまじえてご紹介いたします。容量が大きくなりすぎるので、その1その2に分けての掲載です。
洗浄
見える範囲での汚れ落しではありません。もちろん完全分解します。
金具は全て抜き、鍍金(メッキ)あるいは傷みが激しければ新調します。
←苛性ソーダをかけます。汚れが落ちている様子がお分かりいただけるでしょうか。
また染み込んで木を傷めないように、あからさまに液がかかる木口には、この洗浄の前にあらかじめ堅地(生漆と砥粉を混ぜた下地)をつけて浸透を防いでいます。
お仏檀は、大きくは携わる職人ごとに、木地、屋根、彫刻、金具に分けられます。
今回はさらに部分部分にわけてご紹介します。
彫刻
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これらの写真は汚れを落としたあとの状態です。
いかがでしょうか。汚れを落とすだけで「きれい」にはならないことがおわかり頂けるとおもいます。金箔が剥げたところや、もともとの箔の継ぎ目、さらに、見えにくい部分に使われることの多い洋箔(金の純度の低い箔)が黒く変色しくすんでいます。
また彩色の部分も滲んだり剥げたりしてきます。
このあと、
剥がせる古い金箔をふき取る、
彫りの欠けた部分を接ぎ木して彫りなおす、
剥離した古い下地を剥く、
下地をする、
漆の下塗り、
漆の上塗り、
金箔押し、
彩色、
と進みます。
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完成
漆を塗り重ねるので彫りを極力埋めてしまわないように配慮します。新調の輝きとなりました。
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戸(扉)
戸は玄関です。正面を向き、大面積で、一番手前にあります。そのお仏壇の風格を左右するといっても言い過ぎではありません。
金具を抜いた痕の釘穴や木地の継ぎ目の亀裂は、もろくなった下地を少し範囲を広げて取り去り、刻苧(生漆と木屑の混ぜ物)で埋めます。
釘のききの悪そうなところは適宜、爪楊枝や竹軸を打ちます。
↑左の写真では荒れた古い塗り面がよく分かります。また右の写真では金具で隠れていた部分との差がはっきりしています。
このように、塗り面も汚れを落としただけではきれいにならない例がほとんどです。
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古い塗り面を砥石で研いでいきます。するとうねりや歪みが顔を出してきます。(白い部分が高い)
高い部分を研いで下ろし、低い部分に前述の堅地を塗り重ねていき平滑な面に作り直していきます。
そしてやはり下塗り・上塗りのあと「蝋色」という磨きの作業があります。これは木炭で上塗り面を研ぎ出し、漆を薄く伸ばし、さいごには角粉(磨き粉、かつては鹿の角の焼いた粉を用いた)をつかって手のひらと指先で光沢を出していくものです。この蝋色を三回繰り返します。
これが、
↓こうなります。
左が作業前、右が完成後の戸の様子です。 しっとりとした天然漆のもつ独特の質感です。
須弥壇(しゅみだん)
戸の作業と同じように下地補修、漆塗りと施していきます。写真のように正面以外の金箔は前述の金の純度の低い「洋箔」が押されていることが多いです。
当店ではその部分も正面と同じ金箔を用います。長い年月にも変色することがありません。
また金箔は「艶あり」とするため壇の平面の艶消し黒漆とは漆を塗り分けています。(写真は艶ありの漆の塗り作業前)
完成。壇の上面も黒艶消し漆を塗っています。ぼんやりと映りこんでいます。
屋根
洗浄前。
洗浄後。
漆を塗りなおし金箔が施され、完成。
屋根は線香の煙などで特によく汚れます。
このお仏檀ではご覧のように桝組みがたくさんあるタイプの屋根ですが、各層ごとに分解し、漆を塗り(上・下)、金箔を押します。
端板(はたいた)
汚れを落としただけの状態。ここも変色しています。
研いでいきます。
←ベンガラ漆の上塗りの様子。
黒漆での下塗りのあとさらに堅地でへこみを拾っています。
お預かりする前と趣を変え、ベンガラ色としました。各段の前面も同様です。法華宗ではよく赤みのある色が使われます。
歪みを補修したあと下塗り、ベンガラ漆の上塗り、蝋色です。
下壇(げだん)
御花の水がこぼれたり物を落としたりすることもあり、下壇も傷みが激しいことが多いです。
上の写真は堅地をつけて干せ(乾かし)た状態です。何回も繰り返しだいぶ均せてきました。
完成。研ぎ出し黒漆蝋色塗り、蒔絵には螺鈿(貝細工)も用いています。
中敷(ちゅうじき)
ここも古い下地(白い部分)がめくれていました。古い仏壇は膠(にかわ)による下地が多く水気・湿気に弱いといえます。
当店で用いる堅地は漆の下地なので水に溶けることがなく堅牢です。もちろん塗りの漆との相性がいいのは言うまでもありません。
完成。やんわりと模様が入っているのが見えますでしょうか。漆で書き込んでいます。
引き出し
↑ほとんど見えなくなる引き出し側面も割れがあればほかと同様、刻苧・堅地で補修です。
ここはもともとベンガラ色でしたが逆に黒蝋色塗りとしました。
←下塗りの様子。
完成。ベンガラの壇前面とコントラストがつきました。
長くなりました。その2では残りの各部と完成後の全体写真を含めてのご紹介です。その2は→こちらからどうぞ。
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