錺金具の世界で、墨差し、というものをご存知でしょうか。
平たく言うと『金と黒の金具』です。
文様の外側(文様以外の部分)を「地」と呼びますが、その地を黒く色付けることで、金と黒との色の対比が生まれ、壮麗さが増します。
(名古屋城本丸御殿の金具。)
先日、とある漆塗り修復見積り依頼を頂戴し、それに付随する金具が本来は墨差しだったということで(現状は墨差し無し・金箔焼き付け)、錺金具本職の方に尋ねたり、色々調べを進めますと、私、大きな勘違いというか思い込みをしていることが分かりました。
というのは、この墨差し、てっきり地の部分に黒い塗料(?)を塗るのだと思っていましたが、本当の墨差しはそうではないらしいのです。
かいつまんで説明しますと、
1.地金(銅)を切り出し、形を整える。
2.鍍金(ときん)をする。
≪表面に金を施す≫
3.文様を鏨(たがね)で彫る。
4.地(文様の以外の部分)を刃鏨で鋤(すき)彫りする。
≪鍍金された表面を鋤き、銅を再び出す≫
5.魚々子(ななこ)鏨で魚々子を蒔く。
≪魚々子とは〇が連なる模様≫
6.硫化カリウム溶液に浸ける。
≪鋤いて銅が表れている地のみが黒に色付く≫
なんと、驚きました。
金メッキ(あるいは金箔)を施し、もう一度彫って銅を出し、色付け、だったのです。つまり金の部分は変化しないので地の部分のみ黒色になると。
[錺 - 建築装飾にみる金工技法 より。]
なんという手間でしょう。
この手法を、煮黒目あるいは煮黒味というそうです。そして本当に上等で良いものはこれをしてあるとのこと。
このことを知ってからネットで更に見ていますと、殆どの『金黒の金具』は煮黒目ではなく、色付けのようです。筆で黒い何某かを塗っている様子が多々出てきます。
それが、煮黒目のフェイクなのか、それとも墨差しと言うくらいですから、黒に塗るやり方も元来からある伝統の手法なのか、それは分かりません。
けれど、上等の本物『金黒の金具』は煮黒目だと、どうやらそう言っていいようです。
前置きが長くなりました。
先日、また別のご依頼で古い調度品を見てほしいとのご連絡を頂きました。
その調度品に打たれていた金具が、どうやら煮黒目の金具のようだったのです。
こちらです。
これも塗装なのか、本当のところは分かりません。
けれど何と言いますか、オーラが違いました。本物の放つ存在感。
その緻密さ、精巧さにしばし見惚れてしまいました。黒い塗装だとしても凄い精度でした。
ため息が出ました。漆塗りに於いて、いつかこんな風に感じて頂ける仕事をしたいものです・。
ちなみに、この話を聞いた身内がちょっとやってみた例がこれ。
う、うん、。
気を取り直しまして、、その日の本業。
数々の漆塗りの調度品の手入れをどうにかしたい、とのことだったので、一つ試しに触らせて頂きました。
ビフォーアフター。 内側は半々で磨きました。
結構スッキリと汚れを取ることが出来ました。
さてさて、この品にも金具が。
素晴らしい・・。
ええ仕事、したいです。もっと頑張ります。