家屋内の漆塗りのご依頼を頂戴しました。
当初は古い欄間の修復依頼でしたが、
そのお宅の床の間も触らせて頂くことになりました。
欄間はお預かりして、馴れた職場で作業を進めるわけですが、床の間はそうはいきません。現場で進めます。
この場合簡単ではないのはその環境に依る部分です。漆が硬化するには、適度な温度・湿度を必要とします。
温度が高すぎる・低すぎる・湿度が低すぎる、場合には硬化が悪く、
湿度が高すぎると反応が早く進みすぎ、表面だけ急速に固まり始め、中のほうとの差が出ることによる表面の『縮み』が発生したりします。
下地にしても表面だけ硬化し、中は固まらないことになりがちです。分かりやすく言うと、肉を強火で焼くときのイメージです。表面ばかり焦げ、中は生のまま、といった具合です。
また温度が高いと漆の粘度が下がり、低いと粘度か上がります。
同じ漆でも冬場は「固く」なり伸びにくいですし、夏場は緩くなり、タテ面で垂れようとします。
必要とされる適度な温度と湿度、これを作りにくいのが現場作業です。
とはいえ、いまは漆の精製技術も向上し、そもそもの設定として、硬化の早い漆・遅い漆、粘り気の高い漆・サラサラの漆等作ることができます。
我々塗師は、その環境に適した漆を見定め、調整するところが仕事です。
(堅地:漆による下地、で凹みや欠けを整えている様子)
今回も時季としては冬の入り口でしたが、ほぼ順調に作業を進め、完了することが出来ました。
欄間は、外枠を蝋色仕上げとし、内側の桟の框(かまち)はツヤ消しの黒漆塗りとしました。
かつて、祖父の時代には襖や中戸の框の漆塗りはしばしばあったようですが、今はカシューやウレタンなどの合成塗料によるものに取って代わり、滅多にありません。
それでもごくたまに頂く、今回のようなご要望に応えられる職人で、いつまでもあり続けたく思っています。