[⇒その3]
[承前]
令和4年、桜の季節。通り抜ける風も日に日に心地よくなっていました。
現場事務所へ向かう道。動物園と美術館の間の通りです。
菱の門傍も満開。
森羅万象が喜んでいるような、春。
さて漆塗り修復作業は下地が完了し、いよいよ塗りの工程に入りました。4月6日水曜日。
塗りに際しては埃を嫌うので、格子窓周辺に囲いをし簡易の『ムロ』としました。
埃を出来るだけ避けたいのと、空気を出来るだけ停めた方が硬化しやすいということからです。
ホームセンターの園芸コーナーで適当な支柱を用意しインシュロックで固定するなど、創意工夫しました。
このようになりました。ムロ造りで一日。
内部はこんな様子です。様々なものが入り組んでいるのでもちろん完全には密封出来ませんが、大方の風を停めることが出来ました。格子に一番近い歩みは除けさせて頂きました。ただ突き出す単管はどうしようも出来ず。
4月7日。さあ漆塗りです。
直前に一揃えした泉清吉刷毛を下ろしました。
日本一、との表記が見えますが本当に素晴らしい刷毛です。塗りやすい、塗り心地が良い、毛の千切れ皆無。最高です。お値段も日本一ですが値打ちがあります。
塗りに入ると一気に見た目が進みます。当たり前のことですが、長年携わりながらいつも気分が上がります。
空気を停めるため、格子の向こう側(建物内部側)もシートで遮断しています。
塗り面が硬化したら研ぎます。駿河炭と呼ばれる炭を使います。アブラギリという木の木炭です。
この木目のエッジが刃物のように漆面を「切り」ます。木工で言うと鉋(かんな)の感覚です。今の時代人工の砥石もありますが、それは天然炭を鉋に例えたことで言うとサンドペーパです。
切断と磨滅、と表現するとその差を想像して頂けるでしょうか。天然の材料には使い勝手も仕上がりも敵いません。
研いでいっている様子。手前のツヤ消しになっているのが研ぎ終えた塗り面です。
ひたすら研ぎます。
研いでは塗り。を工期の許す限り繰り返しました。
中塗り二回目以降は純日本産素黒目漆を使用。
硬化が遅い時もありました。湿らせた布を掛け硬化促進。漆は温度と湿度で硬化します。
4月27日水曜日。上塗り。
下地を含めると、9層目です。
漆の上塗りが無事硬化し、養生撤去開始。気持ち良かったです。
こちらは北面の様子。
南面が格子窓五面に対し二面分。
撤去完了しました。
令和4年4月29日昭和の日。
次回で完結です。錺(かざり)金具打ち付け等、完成へ。
つづく。
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