昨年春に手掛けさせて頂いた姫路城の菱の門が現在特別公開されています。いわゆる櫓門(やぐらもん)でして、二階部分に入ることが出来ます。本邦初公開だそうです。
現場作業のときはもちろん何度も出入りしました。二階は倉庫のような使われ方をされていて、葵の紋が入った長持ちが沢山並んでいました。こんかいはそのうちの一つも少し修復され展示されています。
昨年の漆塗り作業の完了が5月下旬、それから9か月ということで、漆の塗り面の劣化進行具合を確認する意味でも足を運んできました。
訪ねたのは2月17日金曜日、時間帯は15時半くらい。ちょうど西に陽が傾きかけていたので綺麗な輝きを放つ姿に出迎えられました。
菱の門をくぐって左に回ると一階に特別な入り口が設えてあります。そこを通り抜け二階へ行くとこんな感じです。
火灯窓(かとうまど:ほかの漢字での表現もあります)。
火灯窓の金物のみ三方になっていまして、側面を間近で見ることが出来ます。
漆の劣化は思ったより進んでいませんでした。9か月間、南からの直射日光と風雨にさらされ、もっとツヤが引けているかと思っていましたが、まだぼんやり映り込みをしてくれてさえいます。この塗りは、うちの祭り屋台や仏壇の漆塗りで通例の蝋色(ろいろ:研いで鏡面仕上げ)はしておらず、いわゆる塗り立てです。
側面は下地の関係で、正面ほど据わりが宜しくなく心苦しいところです。
限られた工期と予算の中、選択と集中をしました。普段目の当たりにする正面の仕上がりに特化しています。
以下二枚は完成時。
現場写真に戻りまして、こちら南面五枚全景。遠景とのコントラストがなかなか良い感じです。気分は桃山時代。
北面。仮のガラス戸が嵌められています。
だいじなことですが、この二階に入ってすぐの左の壁の柱に各年代の修理修繕時の銘板が貼ってあります。
今回のものもきちんと貼られていました。
このたびの錺金具の金メッキ修復は多くの市民の皆さんの篤志によりなされました。私も些少ながら寄付をさせて頂きました。
皆様、誠に有難うございました。
さて、こちらは姫路城主酒井家家老 河合寸翁(かわいすんのう)が愛用した硯とのこと。二階入ってすぐの間に展示されています。こちらも初公開とのこと。約200年前ながらすべすべしたツヤを保っています。オモテの蒔絵は高蒔絵の磨きです。流石の造り。
二階へのアクセスはなんとこの公開のためだけの新設。有難いことです。この段に立ち背伸びし、手を差し上げると、、
外からの様子をレアな角度から見られます。ひょっとして見えるかなと試してみたらうまくいきました。
特別な階段の様子。菱の門の西側です。
菱の門のひさしと天守閣。いつ見上げても美しい。美しさと剛健さを併せ持つ名城です。
北面格子窓の様子。なぜかこちらの方が汚れて見えます。雨で濡れたとき陽が当たらないので乾くのが遅いと考えられますが、関係あるでしょうか。
貴重な体験が出来ました。作業現場のときは物も溢れていましたし、埃まみれ。やはり一味も二味も違いました。特別公開は3月12日日曜日まで。
帰りに大手門前の橋から。あとひと月少しで桜が咲きますね。あぁ、気ぜわしくなります。職業病です。
一方こちらは別の日、城裏の県立歴史博物館です。先々代松原屋台。
現在、館は改装で休業中でして、来る4月8日のオープンに向けて準備の真っ最中でした。それで松原屋台もこの際手入れをしたとのご相談でお伺い致しました。
手入れ、つまり漆面の磨きの相談なのですが、その状態の良さにいささか驚きました。確か平成19年度のリニューアルオープン以来磨いていないはずです。
やはり漆のもちは環境に大きく左右されます。紫外線は大敵です。被曝した時間に比例して風化が進みます。先程の河合寸翁の硯箱も桐の箱の中での保管でした。光が当たりさえしなければいつまでも大概きれいものです。
季節外れのフル装備の屋台を目の前にして妙な気分になりました。嬉しいような落ち着かないような、。
今年の秋祭りに向け、とにかく仕事頑張ります。